"THE MOUNTAIN" by Steve Earle & The Del McCoury Band

THE MOUNTAIN
E-Squared 1064-2
@Texas Eagle GOutlaw's Honeymoon
AYours Forever Blue HConnemara Breakdown
BCarrie Brown ILeroy's Dustbowl Blues
CI'm Still In Love With You JDixieland
DThe Graveyard Shift KPaddy On The Beat
EHarlan Man LLong, Lonesome Highway
FThe Mountain MPilgrim
All songs written by Steve Earle
personnel with;
Steve Earle:guitar,vocal,mandolinEH Stuart Duncan:fiddleCHM
Del McCoury:guitar,vocal Gene Wooten:DobroCI
Ronnie McCoury:mandolin,vocal,guitarE,bouzoukiKM Iris DeMent:duet vocalC
Rob McCoury:banjo,guitarM Jerry Douglas:DobroFM
Jason Carter:fiddle Sam Bush:mandolinM
Mike Bub:bass Dan Gillis:tin whistleJ
and more・・・
produced by the twangtrust(=Steve Earle) & Ronnie McCoury

夏は日本中全国的にブルーグラス・フェス・シーズン!!
ともキンも宝塚フェスに出演し、
ワタシも久々に"Bluegrass Music"をたっぷり(?)聴いたわけです。
そんなこともあり、今回はその"Bluegrass Music"を取り上げましょう。

といっても、主役はスティーヴ・アールというロック・シンガー。
ロック・ファンには「知る人ぞ知る」といった存在。
ジョン・メレンキャンプを思わせる ストレートなアメリカン・ロックを演奏してきた人ですが、
年期を積むごとにエグさを増し、すっかりヘヴィーになりました(体も?)。
彼自身マンドリンも弾きますし、 これまでのアルバムでもマンドリンやドブロなんかを使っていますので、
ブルーグラスへのアプローチも、決して唐突なものではありません。
1995年には、ピーター・ローワン、ノーマン・ブレイク、ロイ・ハスキーといった
ナッシュヴィル〜ブルーグラス人脈で"TRAIN A COMIN'"を録音しています。

一方のデル・マッカリー・バンドは、ブルーグラス界では知らない人がいないほど、
現在のブルーグラス最高峰のバンドです。
大ヴェテランでありながら、 「ハード・コア」とまで言われるほどのゴリゴリの演奏を聴かせます。
アールとのつながりは、1992年のアルバム"BLUE SIDE OF TOWN"で、
"If You Need A Fool"という曲をカヴァーしたのが最初かな?
また、アールの前作"EL CORAZON"(1997)の1曲にゲスト参加し、
ど・ブルーグラスを演奏しています。

そんな両者が共演したこのアルバム、
ワタシが今まで聴いたことがないような「ブルーグラス」のアルバムでした。
まず、ブルーグラスの特徴である「ハイ・ロンサム」なところがまるでない。
アールのヴォーカルはどちらかといえばバリトンで、
言葉を投げ散らかすような、ぶっきらぼうで「ロック」な歌い方をするんで、
張りつめた高音で唄うシンガーが多い中(ゆえにhigh-lonesome)、
少なくてもこんな歌い方をするブルーグラス・シンガーを、ワタシは知りません。
そんなラフでワイルドなアール(彼の人生も、そのようですが・・・)に、
マッカリー・バンドは戸惑うどころか、ハードでタフなバンドとなって、
アールと堂々渡り合っているのです。
Eでのアールの荒っぽいマンドリンのイントロに導き出される
マッカリー・バンドの音は、なんと激しいことでしょう!
こんなブルーグラスは、初めて聴きます。

この感触に近いのは、かのビル・モンローの"BLUEGRASS TIME"(1967)かな?
"BLUEGRASS TIME"には、「ブルーグラスの父」ビル・モンローが、
後にロックの華々しいキャリアを積むことになる
ピーター・ローワン(g)、リチャード・グリーン(f)、ビル・キース(bj)といった
「新しい世代」のミュージシャンと火花を散らす、といったような
スリリングな演奏が詰まっています。
モンローはもともと、とてもワイルドなマンドリンを弾く人ですが、
ロック世代のプレイヤーの演奏に触発されたかのように、
もうガッツンガッツン弾き倒しています。

で、スティーヴ・アールのこのアルバムでは、
それと同じことが起こったのでは?と思います。
ロッカーであるアールが、ヴェテラン・ブルーグラス・バンドに
大きな刺激を与えた、というわけです。
実は、このアルバムで、アールとともにプロデューサーとして名を連ねる
ロニー・マッカリーは、前作"EL CORAZON"中の
"You Know The Rest"というハード・ドライヴィングな曲で、
凄まじいマンドリン(最高!!)を聴かせています。
この、ロニーの「ロック体験」が、
本作に大きな影響を与えているのではないでしょうか?
勿論、生来のアウトローであるアールの個性が
このアルバムの重要なポイントではあるんでしょうが、
その過剰な個性をデル・マッカリー・バンドに受け止めさしめたのが、
ロニーの懐の深さであったように思います。

その結果、このアルバムで演奏されているのは、 紛れもなく「ブルーグラス」なんですが、 その印象は全く異質のものとなっています。
アールとマッカリー・バンドの熱が、
ブルーグラスが本来持っている野蛮でアウトローな部分、
音楽としての異様さや奇怪さなんかを、炙り出しているような気がします。
こんなブルーグラスが、もっと聴きたいなあ。
なお、本作のアール自身によるライナーには、
ビル・モンローと彼の音楽に対する最大級の讃辞を述べていますし、
本作は、名ベース・プレーヤー、故ロイ・ハスキーJr.に捧げられています。
ブルーグラスに対する愛情溢れた1枚。

スティーヴ・アールは、新譜を出したようですね(未聴)。
デル・マッカリー・バンドは、その後、どうなってるんでしょうか?
ご存じの方がいらっしゃいましたら、教えて下さいね。

2000.8.19 text by 佐藤


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