"GRACE" (1994)
by Jeff Buckley

GRACE
COLUMBIA/SONY CK 57528(USA)
@Mojo Pin (Buckley-Lucas) EHallelujah (L.Cohen)
AGrace (Buckley-Lucas) FLover, You Should've Come Over (Buckley)
BLast Goodbye (Buckley) GCorpus Christ Carol (B.Britten)
CLilac Wine (J.Shelton) HEternal Life (Buckley)
DSo Real (Buckley-Tighe) IDream Brother (Buckley)
personnel:
Jeff Buckley;vocals,guitar,harmonium,organ,dulcimer,tabla
Mick Grondahl;bass   Matt Johnson;drums,percussion,vibes
Micheal Tighe;guitar   Gary Lucas;guitar
Loris Holland;organ   Misha Masud;tabla
Karl Berger;string arrangement
produced by Andy Wallace

このアルバム、近所のチェーンの古本屋で550円で手に入れました。
父親がティム・バックリーであることを知ってたのと、
スゴイ歌声の持ち主だという記事を見たことがあったので、
安いし、買ってみよ、と思ったのです。
もちろん、この時点で、ジェフ・バックリーが水の事故で
30年の生涯を終えていたことも知ってました。
で、聴いてみると、確かにジェフの声は素晴らしいし、
(「神に与えられた声」らしい)
演奏も90年代オルタナ臭ぷんぷんで好みやし、
ジャズともロックともフォークともオペラともつかない
作曲のセンスもナカナカで、かなり魅力的なアルバムでした。
「90年代ロックの好盤」として、そこそこ愛聴していました。

が、そのような印象が大きく変わったのが、
「ジェフが、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの曲を、ライヴでカヴァーしていた」
という記事を読んだときでした。
当然、ギター弾きながら唄ったんやろなあ。
ヌスラットといえば、パキスタンの歌手で、
彼が亡くなったときは、彼の地では喪に服すために休日となったほどの英雄で、
20世紀最高の歌手の1人であります(ポン!と太鼓判)。
低音から高音まで、全くムラなく、太く破壊的な声で唄い、
どんなジャズ・シンガーよりもブッ飛んだスキャットを聴かせます。
イスラム宗教音楽を演じる彼の声は、正しく「神の声」。
1度聴けば忘れられませんし、心を鷲掴みにするような力があります。
そのヌスラットは、欧米の若いミュージシャンとの共演や、
映画音楽への参加などもあり、
米国では一部に熱烈な支持者がいることも知っていたのですが、
まさか、「ヌスラットをカヴァーする」なんて無謀なことを試す人がいるなんて!!
ワタシも、車の中でCD鳴らしながら、
ヌスラットのまねをしようとすることもありますが、
高音部で咳き込んで中断、となることが多いのです。
でも、声質は違えど、ジェフ・バックリーならできちゃうんやろな。

そのあと、この"GRACE"を聴いてみると、
なるほど、歌い出しのスキャット部は
カッワーリー(パキスタンのイスラム音楽)の声あわせに似てますし、
よく聴けばタブラやハルモニウムの音も聴き取れます。
ジェフは、ヌスラットを意識して、このアルバムを作ったに違いありません。
そこで、気づいたこと。
「ジェフ・バックリーの新譜は出ない」・・・ああ、残念!!
ジェフなら、幅広い音楽センスと、天賦の声で、
ロックとヌスラットの音楽(カッワーリー)を難なく融合させたでありましょう。
もちろん、ヌスラットの死も限りなく残念ですが(彼も新しい音楽を作ろうとしていた)、
ヌスラットの遺志を継ぐべき才能が失われてしまったことも、ホントに残念です。
彼らがお互い刺激しあって、いい音楽を作りあったり、
「神の声」と「神から与えられた声」との共演、ということは、
この世ではもう起こらないのです。
ジェフは、"GRACE"に秘められた限りない可能性とともに、逝ってしまいました。

因みに、ジェフ・バックリーは、1997年6月4日に、
ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンは同年の8月16日に亡くなっています。
あの世で、セッションしてるかなあ・・・・・。

2001.4.28 text by 佐藤


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