”SACRIFICE OF LOVE”
by RIZWAN-MUAZZAM QAWWALI

SACRIFICE OF LOVE
1999年 REAL WORLD 7243 8 47707 2 3(USA)
@ALLAH HO YA REHMAN / God Is Great and Merciful
ASABIR KI JAY HO / Long Live Sabir
BMANUM KHAK E SAREY / I am the Dust of the Street of Mohanmmed
CPYAR HOTA HAY / Falling in Love

皆さん、カッワーリーって、ワッカーリーます?
えっ、カッワーリーが好き? カッワーリー者やねえー!・・・by PITS。

今回はカッワーリー(QAWWALI)っていう音楽。
パキスタンのイスラム神秘主義・スーフィズムの宗教音楽で、
イスラムのゴスペルってもんでしょうか。
12世紀から歴史があるそうで。
イスラムは、原則的に音楽による神の賛美は禁止なんで、はっきり言って「異端」です。
でも、パキスタンのみならず、両隣のアフガニスタン〜インドにまでファンが居るそうで。
まあ、メッカから遠いからな。トルコにも踊るイスラム教があるし。
このカッワーリー、10人前後のグループで演奏され、基本的にはヴォーカル音楽。
主唱者・副唱者に、タブラ(=インドの太鼓)、コーラス兼ターリー(=手拍子)、
ハルモニウム(=床に置くアコーディオンみたいな楽器)が基本構成。
他の楽器が付くこともあります。
宗教音楽なんで、神や預言者を讃える歌が多いのですが、最大の聴き所は、やはり歌。
特に即興部分では、「ドレミファソラシド」に相当する「サリガマパダニサ」の階名で、
地を這い、天を舞う壮絶な歌声が期待できるのです。
もう、正しく「法悦」。
彼の地では、カッワーリーによるトランスで神に近づき、
そのまま悶死するのが最高の死に方の一つだそうです。

で、このカッワーリーでは、
かつてヌスラット・ファテ・アリ・ハーン(以下、ヌスラット)という巨人が君臨して、
ワタシもヌスラットからカッワーリーを聴き始めたのですが、
一発で彼の魅力に取り憑かれまして、
膨大な数のCDから色々買い集めて聴いていたのです。
そのヌスラットは、ワタシがCDを聴き尽くさないうちに、
1997年に亡くなってしまいました。
間違いなくワタシの「最も好きな歌手」に一人だったので、相当ショックでした。
進化・進歩し続けるヌスラットの新譜がもう出ないなんて。

しかし、やはり新しいカッワーリーは聴きたいし、
ヌスラットのフォロワーはいるはずだ、と信じ、
一か八かで買ってみたのがこのリズワン・ムアザム・カッワーリー(以下RMQ)。
いやあ、よかった。RMQはヌスラットのフォロワーだ。
ヌスラットは、古典的なカッワーリーよりもかなり速いテンポで演奏したのですが、
スピード感ではRMQのほうが上かも。
主旋律(=バンディッシュ)部分も、キャッチーなメロディで親しみやすい。
その上、主唱者のムアザム・アリ・ハーンの声は、
風格では及ばないものの、若い頃のヌスラットか、と思うほどそっくり。
それもそのはず、このリズワンとムアザムのアリ・ハーン兄弟、
ヌスラットの親戚で、彼らの祖父が、
ヌスラットの父・ファテ・アリ・ハーンと兄弟のようです。
そう、カッワーリー唱者(=カッワール;雄弁家)は、世襲制なのです。
さらに、この兄弟、恐らくまだ20代半ば。若い!!!!
この1枚に出会ってから、RMQのCDは全部買おうと思いました。
この"SACRIFICE OF LOVE"(1999)の他、
リアル・ワールドからのファースト"ATTISH:THE HIDDEN FIRE"(1998)も、ナカナカ良い。
2001年発売のカッワーリー・スタイルの新譜も出てるみたい。聴きたい!
ただ、テンプル・オブ・サウンドとかいう
テクノ(?)ユニットとのワールド・フュージョン盤は「×」でした。

さらに、もう一人。
ラーハット・ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン(以下、ラーハット)も忘れてはならぬ。
ラーハットは、ヌスラットの甥っ子。
父は、ヌスラットのパーティー(グループ)で絶妙なハルモニウムを聴かせていた
ファルク・ファテ・アリ・ハーン。

ヌスラット亡き後、偉大な叔父のパーティーとともに、
「ヌスラット」の名も引き継ぎ、名実ともに「後継者」となったのです。
彼の世界デビュー盤"RAHAT"(2001)も、悪くはないが、やはりまだ自分の音楽ではない感じ。
線の細さも否めない。
まあ、このアルバムは、プロダクションが良くないんだと思います。
もっと、じっくり、時間とお金をかけて作らんと。
でも、ラーハットもまだ20代半ば。若い!!!!
オマケに、ラーハットはヌスラットの直接指導を受けたんだし、
ヌスラットが目指した新しいカッワーリーを直に見てきた人ですから。
あのヌスラットの衝撃のライヴ盤 "SWAN SONG"(1998) を越えるような衝撃を
与えてくれるのを待ってます。
ワタシ、これからもカッワーリーを聴いていくんだと思います。

2001年の9月、パキスタン、アフガニスタンは戦争に巻き込まれる危機にあります。
この地にも、素晴らしい音楽と、それを演じる人々、愛する人々がいます。
そのほとんどが、テロ・戦争とは関係ない人々ですし、
戦争を憎み、テロを憎み、平和を望む人々です。
最近、カッワーリーを聴くと、辛く悲しくなってしまいます。
ヌスラットは、アメリカでも多くのファンを獲得してたのになぁ。

2001.10.7 text by 佐藤


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