「島美らさ(しまじゅらさ)」
by 古謝 美佐子

島美らさ
1992年 ディスク・アカバナー ASCD 2002
@しからーさぬなぁ        詞 上原直彦 曲 知名定男
Aナンダリー小(ぐわー)      詞/曲 知名定男
B懐かしき故郷          詞/曲 普久原朝喜
C山の端(ふぁ)に越地(くいち)   民謡
Dでんすなー           詞 登川誠仁 曲 民謡
E水(みじ)んもらさん二人(たい)が仲 詞 上原直彦 曲 知名定男
Fかいされー           民謡
G無情の唄            民謡
H今帰仁天底節(なちじんあみすくふし)民謡
Iめぐり逢い           民謡
J白雲節             民謡
Kヨーあふぃ小(ぐわー)       詞/曲 知名定男
L情念              詞/曲 知名定男

【奇跡の1枚】

琉球モノが続きますが、今回はみーこネーネーこと古謝(こじゃ)美佐子さん。
古謝さんは、沖縄最高の女性シンガーの一人としても知られてますが、
その人柄でも多くのファンを持つ人です。
ワタシも一度、かつて古謝さんらが出演していた「島唄」というお店を訪ねたとき、
ホントに親切にして頂きましたし、
その後、感謝のファンレターを送った後にも、
お返事を頂いたり、年賀状を頂いたりと丁寧にして下さいました。
あらゆる人にそのような態度で接しておられるようです。スゴイ!

このアルバムは、そんな古謝さんの最高傑作と信じる作品。
三線と島太鼓、琉琴(=鉄弦の小型の琴)に、曲によってはギターが加わるという
至ってシンプルな演奏ですが、
出しゃばらず、自然に古謝さんのアルト・ヴォイスを包みます。
音の処理もいいんですよ、これが。
プロデュースは沖縄ポップスの重鎮・知名定男さん。
何と言っても、古謝さんの唄がいい。
丁寧で、熱く、クールな、「情念」のこもった歌声です。
あんまり詳しくないけど、いい女性ブルース・シンガーって、こんなんなんかな?
古謝さん自身、声にマジックがある訳じゃないんですが、
テクニックをひけらかす訳じゃないのに、十分歌のうまさが伝わるんです。
選曲もいい。民謡以外は、おそらく1970年代以降の沖縄のヒット曲でしょう。
知名定男作品が特にいい。
古謝さんの歌を唄おうとする意思と、
知名さんの意思とが完璧に一致した成果でしょう。

琉球音楽の「弱さ」っていうのがあると思うんですね。
琉球弧のミュージシャンの宿命、というのが。
琉球文化圏に生まれたばっかりに、
常に「琉球音楽」と向き合わなければならない、という。
・・・当然、ワタシは琉球出身じゃないんで、想像に過ぎないんですけど。
その「琉球音楽」ってのが、また手強い。
人々の生活に根付き、地元でも人気がある上に、
ヤマト(=日本本土)からも熱烈な視線を送られてる。
オマケに、長い長い伝統の重さと、楽器や唄い方を含めた独特の音楽作法。
固有のメロディと、言葉(=ウチナー口)。
これは、島唄をやる/やらないに関わらず、
すべての琉球のミュージシャンに付いてまわる「血」の宿命です。
りんけんバンド照屋林賢さんが、どっかで言ってましたが、
 「本土の人は、飽きたら他の音楽に行けばいいけど、
  僕らは沖縄から逃げられない」
っていう。
絶対、いつかは落とし前をつけなければならないのですね。
それが、彼らを常に迷わせ、苦しめ、「弱さ」となってしまいます。
演奏から、迷い・苦しみが聴こえてくることがあります。
また逆に、評論家・中村とうようさんが指摘するように、
「琉球だから許されるのでは?」といったような、
致命的な詰めの甘さも、よく聴き取れます。
「なんくるないさー(=なんとかなるさ)」気質ですか・・・? それまた宿命。

古謝さんも、ネーネーズ時代(1990〜1995年)には、
プロデューサーの知名さん共々、その泥沼にはまったようです。
後期のネーネーズは、沖縄を強調するあまりか、とても窮屈になり、
奇跡のデビュー作”IKAWU(いかうー)”(1991年)で聴かれたような、
島唄とポップスの自然で新鮮な融合も、
現在の素顔の沖縄の人々を唄う伸びやかな歌も、
香り立つような空気感も、みるみる失われていきました。
この傾向は、多くの琉球ミュージシャンに見られますが・・・。

しかし、今回紹介の”島美らさ”には、そういう迷い・苦しみは一切感じられない。
それは、古謝さんが島唄での十分すぎるまでのキャリアと、
国内外のポップス・ミュージシャンとの交流で培われた柔軟で幅広い音楽性と、
「歌を唄う」というシンプルな動機があってこそだと思います。
一聴では地味な印象のアルバムですが、聴く者を瞬時に捉える力があります。
”島美らさ”は、ワタシの車に積んでいる確率の高いCDで、
3人の人がそれを聴いて、CDを購入しました。
(このアルバム、今や稀少盤。HMVなら手にはいるかも。急げ!)
古謝さんはその後、ネーネーズを離れ、知名さんとも仕事をしなくなったようです。
近作”天架ける橋”(2000年)では、
”島美らさ”のような奇跡は聴こえてきません。何故でしょう???? 謎。
そのような作品は、滅多に作れるものじゃないんでしょうねぇ。

最近の琉球のミュージシャンの中には、
琉球ならではの「弱さ」をうまく克服している人もいます(極少数)。
きっと、紆余曲折、試行錯誤、七転八倒の結晶なんでしょう。
そんな意味もあって、ワタシは琉球のミュージシャンを尊敬しているのです。
羨ましいような・・・、気の毒のような・・・。

古謝美佐子さんの公式 web site http://www.kojamisako.com/

 ※「琉球」という言葉は、奄美地方を含む「沖縄文化圏」という意味で使っています。

2002.5.3 text by 佐藤


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