Goldberg Variations, Two Fugues from "The Well-Tempered Clavier"
by Glenn Gould

Glenn Gould
Composer:
Johann Sebastian Bach (1685-1750)
Performer:
Glenn Gould, Piano

ゴールドベルク変奏曲BWV.988(1955年録音)
1.   主題(アリア)
2.〜31.変奏1〜変奏30
32.  アリア

平均律クラヴィーア曲集第2巻より(1957年録音)
33.第14番嬰ヘ短調BWV.883のフーガ
34.第9番ホ長調BWV.878のフーガ

最初に聞いたときに衝撃を受けたピアニスト第2弾。

やはり僕がバンジョー弾きだからだろうか?トリスターノ同様、否それ以上に無機的な音弾の速射砲に参ってしまった。
美しさのなかの鋭い棘が心臓を次々と貫いていきながら、喜びの涙が頬を伝うようなアルバムだ。

J.Sバッハ作のゴールドベルク変奏曲の(ソロ)ピアノ録音。
テンポの速い曲もそうでない曲も、音の散弾が途切れることなく聴者の耳を襲う。
それでいながら心穏やかになる。

この人こそカリスマと云う言葉がふさわしい人物の一人では無かろうか?

逸話もたくさんあるひとであり、天才が異常者との際々ではないかといったタイプであったらしい。
録音は、結構たくさん残している。バッハを最も得意としていた、というか本人が好きな音楽であったらしいが、
ベートーヴェンや、モーツァルト、シェーンベルク等々も演っている。
僕は、グールドの演奏の醍醐味を感じるには、このアルバムとバッハ作「イギリス組曲」が好きだ。
多くのクラシックのミュージシャンがそうであるように、グールドも同じ曲を何度も録音している。
今回紹介したアルバムはスタジオ録音だが、ライブ録音も何枚かあるようだ。
僕も1枚、1959年録音作を持っている。

僕はクラシックも嫌いではない。
作曲家でいうとドビュッシーやストラヴィンスキーなんかも好きだし、マーラーの作品は、どれも大好きだ。
指揮者(作曲家でもあるが)のレナード・バーンスタインが好きで彼が指揮しているものを何枚か集めたこともある。
ジュリーニ指揮のフォーレのレクイエムも僕のお気に入りの一つだ。

とはいえ、グールドを聞くまではクラシックというのは、スタイルが先行しているというイメージは、
僕の中では拭いきれなかった。 しかし、グールドのゴールドベルク変奏曲を爆音で聞いた時は、たまげた。
こんなにドライブ感があり、正確で、音が脳の襞の谷間に次々と突き刺さる感覚。
時折グールド自身が唸りながら演奏している、その声まで録音されているのだが、
まるで本当のロック精神ってやつがあるならば、
グールドの精神性はまさにロックそのものと感じる。
演奏家(グールド)が曲(=作曲家バッハ)と一体化し、まさに「表現」する行為。

音楽とは、「再現の芸術」であるという批評家の意見には、僕は反対だ。
確かに一面的にはあたっているかもしれないが、それでは音楽は悲しすぎる。
演奏家(グールド)は、スタイルを借り、まさに「何かを表現」しているというのを、僕は感じる。
残念ながら僕は熱心に勉強をしていないから抽象的になってしまうのだが、僕も音楽を嗜む側の端くれなので、
その「表現」の固まりが音に乗って、僕の方へ飛んでくるのを感じるのだ。

そういえばある音楽雑誌で、熱血音楽って特集をやってたけど、グールドのゴールドベルク変奏曲は、まさに熱血音楽だ。

音楽は、心を安らかにもしてくれるし、滾らせてもくれる。
姑息ではなく、真っ正面から素晴らしい音楽が聴けるアルバムだ。

2002.9.28 text by 紅翼


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