”Long Riders” by Ry Cooder

Long Riders
1 Long Riders, The
2 I'm A Good Old Rebel
3 Seneca Square Dance
4 Archie's Funeral, (Hold To God's Unchanging Hand)
5 I Always Knew You That You Were The One
6 Rally 'Round The Flag
7 Wildwood boys
8 Better things To Think About
9 Jesse James
10 Cole Younger Polka
11 Escape From Northfield
12 Leaving Missouri
13 Jesse James

サウンドトラックに何を求めるのか?
映画全体のモチーフのような大仰な、印象的な曲を忘れがたいから?
映画の感動的なシーンに挿入されていて、そのシーンを思い出したいが為?
挿入曲が映画と独立して、良い曲だから?
オムニバスの一種として捉えて?
それとも好きなミュージシャンが絡んでいるから?

ダスティン・ホフマン主演「卒業」のサウンドトラックの製作は、サイモン&ガーファンクルだったのだが、
映画から独立しうるサウンドトラックの先駆けとして一般的に評価されているアルバム(サウンドトラック)である。
僕は、このサントラはまだ映画と音楽の分離が覗かれるように感じる。
これなら、ミュージカル映画のサントラの方が映画との一体感はある。まあ当たり前だけど。
言い換えると、「卒業」という映画と「卒業」というサントラの場合、映画は映画として、
サントラに収録された音楽(曲)は曲として、良いと思われるに過ぎないということ。

映画と音楽との分離をもっと押し進めていくと例えば、
岩井俊二監督「スワロウテイル」のサントラ(?)YEN TOWN BAND「MONTAGE」のように
完全に映画の中から飛び出したバンドが作ったアルバムになるのだろう。
ブルース・ブラザーズなんかも同じだろうね。

ところがサイモン&ガーファンクルの「卒業」サントラのもう一つの内包している
サントラの方向性を押し進めたのが、ライ・クーダーが製作した映画「ロング・ライダーズ」のサントラだと思う。
このサントラは、いわゆる「映画のノベライズ」と比喩すべきか?
音楽による「映画の再構築」を形にしたものであると僕は評価する。
同様に、僕が好きなサウンドトラックにエミール・クストリッツァ監督「アンダー・グラウンド」
のサウンドトラックもあり、今までも僕はこのサントラを名盤として何回も紹介しているが、
これも「ロング・ライダーズ」と同じ方向性を持ったサントラだと僕は評価している。

サウンドトラックなのだから、曲々を聞いて、映画のシーンを思い出すことは当然だろう。
これをさらに押し進める形で、映画「ロング・ライダーズ」のサントラは、
アルバムだけ聞くだけでもストーリー化されているような構成と、曲作りがなされている。
また、映画のジャンルは、西部劇なのだが、このサントラを聞くだけで
アメリカンルーツミュージックを垣間見たような気分も味わえる。
1曲目のアコースティックギターで始まる出だしは非常に印象的。
ダンスチューンも入っている。古き良きアメリカの郷愁を誘う曲も入っている。
6曲目のRally 'Round The Flagや13曲目のJesse Jamesなんかは、
このころのライ・クーダーらしいアレンジの曲である。
でもあくまでも「作り物」なのである。

ライ・クーダーが映画をモチーフにはしているのだが、
全く独立したライ・クーダーのアルバムとして再構築されているのである。
その辺が、ライ・クーダーが何となく嘘っぽいミュージシャンの風を感じるところなのである。
ライ・クーダーの音楽性はだいたいそうなのだと思う。
どのアルバムを聞いてもこんなことをしたいということが割とはっきりしているのだ。
僕は皮肉を込めて書いているつもりだ。ライの「こうしたい」というのは「こんなものを作ってみたい」
って気持ちをそのまま「やっちゃった!」って感じのアルバムが多い。
だからサントラの仕事が多いのかな?
換言するなら「職人的」と言ったらいいのかな?
だけど、まったく職人に徹しているというのでもないんだよな〜ライは・・・
やっぱりライは、「アーティスト」でもあると感じてしまうのだ。

僕の個人的な印象としては、ライ・クーダーというミュージシャンは、「顔が希薄」なのだ。
個性はある。非常に独創的でもある。
でも存在というかなんというか、裏方のような気がしてならない。
でもライ・クーダーの顔が見えなくても、ライ・クーダーという「名前」は非常にインパクトのあるミュージシャンなのだ。
(無論、僕はライ・クーダーの顔は知っている。
写真も見ているし、コンサートにも足を運んだこともある数少ないミュージシャンの一人なのだから。
本当に顔を知っているかいないかを言っているのではなく、「顔が希薄」な感じが拭えないのだ。)

僕にとってライ・クーダーのアルバムの中で、一番好きなアルバムが、
意外とこのサントラかもしれないと最近思うのだ。
顔があるようで、無くて、名前とともにギターの腕前は聞く者を引きつけ、
手堅く色んなことを表現しながら「格好いい」、
そんなミュージシャンがライ・クーダーだと思う。

2002.12.8 text by 紅翼


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