「悪党ども」
このコーナーはそもそも、ともキンメンバーによる音楽に関するコラム/エッセイ欄。
特に本稿は、映画のことを中心に書くが、別に映画紹介や是非観てね♪って
薦めるわけでもないので、本稿に出てくる映画のストーリーや結末を知りたくない人には
不親切なので悪しからず。
拙宅には、テレビがない。故にビデオも観れない。テレビがあった頃(昨年12月まで)は、
よく映画をビデオで観ていた。週に2〜3本も観ていたように思う。
事情があり、転居してからプライベート以外のことが忙しくまた、買ってきたCDは聴かなあかんし、
楽器は弾かなあかんしで、テレビを見るどころではなく、故に映画やビデオも観れる状態でなく、
以上は言い訳のようだが、テレビがある頃の映画鑑賞量が嘘のようで、ここ半年は、せいぜい5〜6本
程度しか観ていない。
先日、久しぶりにあるところでビデオを観るチャンスができたので、レンタルビデオ屋に行くと
目移りが激しく、何を借りようか随分迷った。あまりに久しぶりなのでミーハーなようだが、
司馬遼太郎原作の「梟の城」、黒澤明原作の「雨あがり」、エミール・クストリッツァ監督の「黒猫白猫」、
カン・ジェギュ監督の「シュリ」、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「海の上のピアニスト」
などなどを前もって頭に思い描きながら、店に入った。
ところが、借りようと思ったものはすでにレンタル中か、店に置いていないものばかりで、
はてさて何を借りようと思い悩んだ。まだ観たことのない映画で
「バグダッド・カフェ」や北野武監督の「花火」、キアヌ・リーヴス主演の「マトリックス」、
ロビン・ウィリアムス主演の「グッド・ウィル・ハンティング」等々目に付いたものは、
何か「気分」ではなく、しばらくぼうっと店内を物色していた。取り敢えずハリウッドもの、
アジアものを避け、ヨーロッパものがいいかなあ〜などとその辺をうろうろしていたら
「存在の耐えられない軽さ」や「魚のスープ」なんかが目に入り、記憶をたどってストーリーを
追っかけていくと、どうも記憶が曖昧で、すなわちヨーロッパものも「今、観たい気分ちゃうな」
っちゅう気分に陥りかけたとき、お薦めコーナーでふと目に付いた映画が、
『バンディッツ』
脱獄もの、音楽もの、ロードムービーっぽいところ、という箱の裏のあらすじ紹介欄を見て、
「おっ面白そうやんけ」と思ったら、ドイツ映画やんかいな!
その場で即借りて帰った。
ついでにガキのために何か借りて帰ろうと思い、思いあえいだ末、
「トムとジェリー」第3巻をレンタルして帰った。これはこれで大変面白かった。
『バンディッツ』は、「ブルース・ブラザーズ」と「明日に向かって撃て!」とを足したような映画。
とは言っても、『バンディッツ(悪党ども)』ってかっこええタイトルから憶測されるような
義賊ものではなく、音楽に魅せられた主役達が、法的には、我が儘勝手な犯罪者として確実な
4人の女囚達の脱獄・逃避行が本筋であり、その逃亡生活の中で、女囚達同士のキャラクターの
ぶつかり合いや犯した犯罪の経緯の露呈等々から友情が芽生えることとと、音楽/バンドによって
自らの希望と自由を獲得していくといったことがテーマである。
結末は、「友情/成功/幸せという“概念”だけは取り敢えずつかんだで〜」ってな終わり方であり、
この終わり方が「明日に向かって撃て!」っぽい。
従って現代の若者層の生活や風俗をリアルに描いたと言うよりは、ファンタジーに近く、
ストーリーの展開の強引さや、細部の不可思議は横へ置いておいてってな感じの勢い一発、
かっこよさ一発のニューシネマって風情である。
挿入の音楽、というか脱獄女囚4人組は、刑務所内でバンドを結成した仲間であり、
逃亡の先々でバンドを売り込んだり、飛び入りライブをやったりするのだが、その演奏音楽が
非常にかっこいいロックなのである。ブルースライブをやっているある酒場でキーボードのマリーが、
ブルースバンドが休憩に入ったところでピアノを弾き始め、幻想的な演出から
脱獄女囚4人の大音響ロックになだれ込んでいくと、ブルースを聴きながら酒をあおっていた客衆が、
踊り狂う騒ぎまくる!!
この辺が「ブルース・ブラザーズ」を彷彿させるところでもあるのだが、映画を見ている方も思わず興奮!
腰を振りたくなる。脱獄女囚4人組がワゴン車で逃亡中。渋滞に巻き込まれ、
今や有名になった脱獄女四人囚バンド:バンディッツが周囲の渋滞車の一般民達にばれてしまい、
警察に追われていることもそっちのけで路上大ロック/ダンスパーティーを繰り広げ、
果たして警察が彼女らを捕まえに現れるところは、映画「ウェスト・サイド・ストーリー」の
ワンシーンのようだった。
ついでに言うと、エンディング近くで、南米への逃亡を目論み船に乗る直前に野外演奏会を廃墟ビルの屋上で始め、
警察に囲まれてから逃亡を図るシーンの逃亡の仕方は、シルベスター・スタローン主演の「勝利への脱出」
でのラストシーンのようだった。
虚構の世界であるのだが、ロックという音楽の持つ求心力が本来、自由・希望・野蛮・アナーキー・刹那等々
であることで素晴らしさが倍加することを改めて知らされたような映画であった。
現在進行中のロックが商業的であるとか、保守的であるとか云った、つまり「骨抜き」であることも、
状況によって変わるのだと思うのと同時に、やはり現在進行中のロックであって、
もしかしたら他の平凡なロックとの差に自分は気が附かなかったのではないかという不安があり、
様々な付加価値によっても聞こえてくる音楽/ロックも聞こえ方、言い換えるならその音楽の善し悪しが、
変わってくるのではないかという自己に対する不安が生じてくる作品でもあった。
もう少しわかりやすく言うと(「わかりやすく言う」ということは、
誤解されやすい表現に言い換えると言うことでもあるので注意。)、
映画『バンディッツ』の中で演奏された(流れてきた)曲は、いい曲ばかりに聞こえてきたが、
それは自分が映画の中に引き込まれているからであって、「ワル達が演奏しているロックっていう音楽は、
かっこいいんだ」っていう通俗的な感じ方をしてしまっているんちゃうか?という不安である。
映画とかけ離れたところでこれらの音楽、挿入曲を聴いたとしたら、「なんや普通やんか」、
で終わってしまうんちゃうか?ということである。
だとしても、曲々をかっこよく思わせるだけでも、そういう意味で良い映画であったと思う。
2000.9.10 text by 紅翼