「音楽の神様が・・・」 〜 エリック・カズ・ライヴ・リポート

ワタシが、米国の自作自演歌手エリック・カズ(またはエリック・ジャスティン・カズ)を知ったのは、
リンダ・ロンシュタットの名盤“CRY LIKE A RAINSTORM, HOWL LIKE A WIND”[1989年]から。
リンダによって、感動的に歌い上げられたエリック作のタイトル曲に、
すっかりまいってしまったのです。
ホント、いい曲。歌詞も、メロディも。超名曲。
その後、再発されたソロ・アルバム“IF YOU'RE LONELY”[1972年]“CUL-DE-SAC”[1974年]も、
名曲揃いの素晴らしいもので、エリック・カズの名前は常に気になっていました。
でも、どうやらエリックは、70年代以降演奏から遠ざかり、
裏方に回って、地味に作曲活動に専念してると知り、残念に思っていました。

ところが、今年の初夏になって、エリック・カズが来日すると、唐突に聞きました。
オマケに、ニュー・アルバムまで発売するって。ホンマ、ビックリ!
嬉しかったとともに、正直、不安もありました。
まぁこれまで、現役から遠ざかっていたミュージシャンがさらした醜態を、
数々目撃してきたもんですから。
そんな時って、ホンマにガッカリするんですよ。一発で、その人、嫌いになるね。
「カネのための、来日公演かい!」ってね。

エリックの20数年ぶりのアルバム“1000 YEARS OF SORROW”は、けっこうガッカリさせるもんでした。
デモテープ集のような、海賊版に毛が生えたような内容。
あ、京都・プー横○の制作か・・・。
これで、ライヴを見るのがとても不安になったのです。
ああ、エリック・カズ、あなたにもガッカリさせられるのかな・・・、って。

さて、ライヴ当日、2002年9月8日。
場所は、ご存知、京都の磔磔(たくたく)。
酒蔵を利用した、古くて狭い老舗ライヴハウスです。
開場20分後には到着したのですが、ほぼ座席は埋まってました。予想以上の盛況や。
その後も続々来客がありまして、もう満員。300近くは入った?
狭い店なんで、演奏を楽しむ環境としては、結構厳しいかな。

で、主役のエリック・カズ登場。もちろん、バック・バンドはありません。
ああ、アルバム・ジャケットとは違う人や。
貫禄のある、中年男性です。年月を感じます。
ジャケットから感じられる神経質そうなイメージを裏切る、屈託ない笑顔です。
おもむろにギターを手にして、演奏開始。お、いい演奏をするぞ。
パフォーマンスから20年以上も遠ざかってるとは思えません。
ピアノも、上手です。うん、十分現役。不安は、完全に吹っ飛びました。
セット・リストは、以下の通り。
= guitar = 1 Temptation  2 River Of Tears
= piano = 3 Angel  4 Love Has No Pride
= guitar = 5 Mother Earth  6 Gambling Man  7 Tonight The Sky's About To Cry
= piano = 8 Hearts On Fire  9 Such A Beautiful Feeling 10 Cruel Wind
11 Crossroads Of My Life 12 Blowing Away 13 Cry Like A Rainstorm
14 Someday My Love May Grow 15 I'm Gone
16 Christ, It's Mighty Cold Outside
(encore)
17 Watching The Picasso Painting 18 I Cross My Heart
19 If You're Lonely 20 (unknown song)

時間を追うごとに、エリックの演奏はキレを増し、グイグイ引き込まれていきます。
パフォーマーとしてもチャーミングで、ユーモラスな仕草や解りやすいお話(ギャグ)で聴衆を魅了します。
ああ、京都まで来て、よかった。

そして何より、ワタシが驚いたのは、聴衆の集中力の高さ。
決して低いとはいえない年齢層なのに、
狭い店の固い椅子で、肩寄せあっての客席なのに、
全くダレることなく、エリックの発する一音一音に全神経を集中させているようでした。
普通、一人の弾き語りは、30分で辛くなりますよ・・・。

ワタシなんかは、まだファン歴浅いですが(10年少々)、
もうエリックを20年以上待ってた人もいたでしょうから、
静かでありながら、熱く、緊張感ある客席となったのでしょうね。
明らかに、「20年待ちわびたで!」と見受けられる人もいたしね。
正しく、幻のシンガー・ソングライターの、待望の、奇跡の初来日なのです。
エリックもそんなムードを感じたようで、感激していた様子です。
何度も、謝辞を述べてはりました。
よほど京都が気に入ったのか、アドリブで、「キョウト」なんてな曲を作ろうとしていたほどです。
エリック・カズ、何と幸運なミュージシャンなんでしょう!
こんな状況で演奏することなんて、生涯に何回もないはずです。

ワタシは、神とかホトケとかという言葉を使うのは嫌いですが、
このときばかりは、「音楽の神様」っていうのがいるのかな、と思いました。
音楽の神様が京都に下りてきて、エリックに祝福を与えたんじゃないかな、と。
神様が、「お前、いい曲作ってきたな。今日は、ご褒美じゃ」と、最高の演奏環境を用意した・・・、
そんなことを思わせました。
・・・そんなことを思ったのも、初めてのことです。
何か、凄いモンを見てしまった、目撃した、って感じ。
こんな「ハプニング」も、あるんやなぁ。

見事にショー・アップされた演奏会も楽しいし、
表現意欲むき出し、直球勝負の演奏も面白いし、
サービス・サービスの芸人根性旺盛な演奏もいいですが、
こんなかたちの演奏会も、あるんやなぁ。
演奏者と、彼を待ちわびた聴衆の、幸福な邂逅が生み出す幸福な時間。
ま、「神様」の演出が、欠かせないみたいですけど。

“IF YOU'RE LONEY”[1972]
by Eric Justin Kaz

2002.10.3 text by 7★


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